ルッツジャンプ検証 2013年作成版

正確な解説

●LUTZ ルッツ
左足“外側”に体重が乗ったらルッツ

アクセルの次に難しいとされるのが、ルッツジャンプです。

ルッツは、少し長めに左足の外側エッジに乗って後ろ向きに滑走し、左肩をぐっと入れて右のトウをついて跳びます。滑走で描いてきた軌跡と反対の回転をかけながら踏み切るので難しいとされるジャンプです。「左足外側エッジ」というのが重要なポイントで、これが「左足内側エッジ」に体重を乗せてしまうと、正しくないエッジと判定されて減点対象となります。

ジャンプの基礎 - フィギュアスケート連盟


アクセルも含め、他のジャンプは踏みきりのときのエッジのカーブと同じ方向に向かって回転します(これを、スリー方向に回転すると表現します)。なので助走の力をジャンプに伝えやすいのです。しかしルッツは、踏み切りの時に描くカーブと逆の方向に向かって回転します(これを、カウンター方向に回転すると表現します)。自然の力に逆らった方向に回転するため、同じ回転数でも実質的にはより回転力を増してやらなければならないわけです。
フィギュアスケートガイド

人体の構造から言うと、左足の小指側のふちでルッツのトレース痕のような図形を地面に描こうとすると、体は自然に時計回り方向に回ります。
ジャンプする方向は反時計回りなので、そちらに体を向けようとすると、それだけ負荷が掛かります。
ルッツは体が自然に向う方向とは反対の方向に跳ぶので、助走のエネルギーをジャンプに伝えにくいジャンプです。

ポイント1:エッジとトレース痕

ルッツは、少し長めに左足の外側エッジに乗って後ろ向きに滑走し、左肩をぐっと入れて右のトウをついて跳びます。
ジャンプの基礎 - フィギュアスケート連盟





ざっくりとした模式図ですので位置などは正確ではありません。

左足(踏み切る足)がアウトサイドエッジに乗り、図のようなカーブのトレース痕にならなくてはいけない。


ポイント2:カウンタージャンプであること

ルッツは、少し長めに左足の外側エッジに乗って後ろ向きに滑走し、左肩をぐっと入れて右のトウをついて跳びます。
ジャンプの基礎 - フィギュアスケート連盟



カウンター方向への移動


スリー方向への移動

カウンター方向(時計回り) ⇒ 逆のスリー方向(回転する方向/反時計回り)への移動がはっきりわかります。
助走のエネルギーを伝えにくく、負荷がかかるため、より回転力が必要となります。そのためルッツジャンプは難度が高くなります。

では、それをふまえてキムヨナのルッツジャンプを見てみましょう。




カウンター方向 ⇒ スリー方向への移動が確認できません。これではアウトサイドエッジでフリップジャンプを跳んでいるのとあまり差がないように思えます。


グレイシー・ゴールドのトリプルルッツ

単独3Lzコマ送り画像(1800 x 305)

フィギュアスケート連盟の解説にある『左肩をぐっと入れて』はどこに行ってしまったのでしょうか?左肩ではなく上半身全体が沈み込んでいます。『左肩をぐっと入れて』は無視していい要素なのでしょうか?
カウンター方向からスリー方向への移動が大きいほど回転力が必要になります。ルッツがカウンタージャンプである以上、重要なポイントであるように思います。

ポイント3:ジャンプの質と採点

3Lz-3T


J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
3Lz-2T 10.10 +1.90 2 3 3 2 3 3 3 3 2

単独3Lz

J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
3Lz 6.60 +1.80 2 3 3 2 3 2 3 2 3

男子選手と女子選手のジャンプの基礎点は同じです。GOE(Grade of Execution/要素のできばえ評価)も同じです。性別は加味されず純粋にその選手の技量に基づいて採点されます。例えば3Aを跳ぶ女子選手がひとりしかいないので、3Aのみ男子選手と比較して技の善し悪しを判断するということもありませんし、ある特定のジャンプは女子選手であるという前提に基づいて性差を加味して採点されることもありません(建前は)。男子選手と比べると劣るが、女子選手の中では技量が高いので高得点になるということもありません(建前は)。
GOE +3 は、男子選手をもしのぐ高い技術があるとジャッジが判断したということです。
ただしこれはあくまで建前で、ジャンプの採点の高低を左右するのは、ジャンプの質の良し悪しではなく、『誰が』跳んだかで決まるのではないかと、ファンの間で揶揄されています。

GOE +3 を出すには次の8項目中6項目以上該当するジャンプであることが求められます。
1)予想外の/独創的な/難しい入り
2)明確ではっきりとしたステップ/フリー・スケーティング動作から直ちにジャンプに入る
3)空中での姿勢変形/ディレイド回転のジャンプ
4)高さおよび距離が十分
5)(四肢を)十分に伸ばした着氷姿勢/独創的な出方
6)入りから出までの流れが十分(ジャンプ・コンビネーションシークェンスを含む)
7)開始から終了まで無駄な力が全く無い
8)音楽構造に要素が合っている



男子シングルで世界最高得点の記録保持者パトリック・チャンの3Lz。GOE +3 はひとつもついていません。
J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
3Lz 6.60 +1.10 2 1 1 2 1 2 2 2 1



J1 J2 J3 J4 J5 J6 J7 J8 J9
3Lz 6.60x +1.80 2 3 3 2 3 2 3 2 3

パトリック・チャン選手は、自分のルッツが女子より劣ると評価されていることをどう思っているのでしょうか。